書籍『恐竜ホネホネ学』

恐竜情報源>書籍など 2010年 10月 19日by 小橋 昭彦コメント:0

……恐竜を見たという思いは残っても、骨を見たかと問われると、言いよどんでしまう。案外、そういう人は多いのではないだろうか。本書は、そんな人たちにとって、恐竜の復元展示を楽しむための、格好のナビゲーターになっている。……

 誰でも一度か二度は、博物館や恐竜展で恐竜の復元骨格を見たことがあるだろう。ぼくにもある。しかし本書を読んで、自分が復元骨格を見たつもりでいたものの、本当には何も見ていなかったことに気づかされた。
 たとえば、ステゴサウルスの骨格展示にある「喉あて」。決して小さなパーツではない。首の骨の下に、粒状の小骨が、もし肉体があったなら皮膚があるだろう位置に、雲のように並んでいる。これは「皮骨」という骨だそうだ。皮膚の中にできるもので、喉を守るための鎧の役割をしている。19世紀、マーシュによって最初に復元されたときにはついていたけれど、その後は否定されていたのが、新しい化石が見つかって復活したという。
 そんな「喉あて」の存在さえ、ぼくは「見て」いなかった。頚椎から離れて並ぶ、不思議な骨なのに。けっきょくぼくは、展示を見て、「大きかったね」と感動して終わっていただけといってもいい。恐竜を見たという思いは残っても、骨を見たかと問われると、言いよどんでしまう。案外、そういう人は多いのではないだろうか。本書は、そんな人たちにとって、恐竜の復元展示を楽しむための、格好のナビゲーターになっている。

 本書の特徴をよく表しているのが、冒頭部分に紹介されている、博物館の復元模型を見るときのチェックポイントだ。
 チェックの第一は、展示されている骨が真骨かどうかから入る。ここで、化石産出地ではありつつ、真骨を保管する施設があるとは思えない丹波に住む身として、ちょっとほっとする記述があった。

実物の骨からシリコンゴムで型取りしたレプリカは形の上では本物と寸分たがわず、真骨とよぶに値する。

 ということである。考えてみれば、化石そのものだって、骨自身ではなく、(地球による)化石化を経て作られたレプリカみたいなものではある。展示するには、レプリカでも決して劣っているわけではないのだ。
 ただし、真骨からのレプリカと、足りない部分を補完して造形したものとは違う。ここははっきりしておいたほうがいいという。博物館の中には、真骨と真骨からのレプリカ、そして推定による補完を明記した骨格見本を展示しているところもある。
 それから、個々の骨の位置や順番。たとえば手の指の骨は正しい配置か。尾椎の並びはどうか。本書にはいくつかの種類の恐竜の手骨や足骨の図が収録されている。それぞれに特徴があり、どういう理由からそのような形になったのか、想像するだけで楽しい。
 個々の骨を見終えたら、関節を見る。骨の間に大きな隙間があり、脱臼状態になっていないか。あるいは、全体の姿勢はどうだろう。ぼくは以前、「二足歩行http://zatsugaku.com/?p=63」というコラムで、「一歩一歩、倒れながら歩くぼくたち」と書いたが、それはティラノサウルスでも同じこと。歩いている様子を再現しているなら、重心が前後に開いた脚の中心にあってはおかしいわけだ。このあたりは、展示のリアリティにつながる部分でもある。

 著者は言う。

事件現場に残されたかぎられた証拠から、刑事や探偵は推理を重ねて犯人を追いつめていく。同じように地層中に残された骨や歯の化石からできるかぎりの情報をひき出して太古の生物の姿を今によみがえらせるのが骨格探偵つまり古生物学者の仕事であり、この謎解きこそが古生物学の醍醐味である。

 本書を通して、その醍醐味を感じてほしい。探偵が虫眼鏡片手に証拠を探し推理を重ねるように、骨から語り起こして、恐竜の復元を語る。まずは骨格を復元し、それから筋肉や生体を復元する。さらには恐竜がとった動きの復元、そして恐竜の生活の様子の復元まで。一歩一歩、具体的なエピソードが語られる。
 ただし、本書には、専門用語として骨の名前が頻出する。ぼくもそうだったけれど、初心者には、書かれていることのイメージがつかみづらい。そこで、本書を読み進めるにあたっては、45ページにある各部の骨の名称図をコピーして片手に持ち、参照しながら読まれることをお薦めする。

 本書にこんなエピソードが紹介されている。

20世紀の真ん中には沈滞した「恐竜研究の中世暗黒時代」があり、アメリカ自然史博物館長ヘンリー・F・オズボーンの権威が幅をきかせていた。しかしその基礎にはオズボーン監修、チャールズ・ナイト画のコンビによる古典的名作といえる多くの復元画が、暗黙のうちに大勢の人に恐竜のイメージを植えつけていたからではなかろうか。

 著者はおそらく、証拠をもとにした論理的な推理と、もっともらしい空想をごちゃまぜにすることに対して、厳しい姿勢で臨んでいる。空想を先走らせて、「冤罪」を生むことを戒めている。
 著者は、適宜哺乳類との比較を交えながら、手堅く解説していく。「ホネホネ学」のタイトルほどに内容はやさしくないが、しゃぶればしゃぶるほど味が染み出る一冊である。

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