書籍『ぼくは恐竜造形家』

恐竜情報源>書籍など 2010年 9月 19日by 小橋 昭彦コメント:0

……ものづくりの本質がそのまま切り出されているような文章だ。著者といっしょに、創作の神髄を見出す喜びを、読者も感じることができることだろう。本書は、ただ荒木さんの自伝であるだけではなく、読者に多くの学びを与えてくれる、すぐれた教養書でもある。……

恐竜模型作りの第一人者、荒木一成さんによる自伝的作品である。ほぼ同世代のぼくのような人間にとって、「オタク第一世代」として描かれる時代の風景のひとつひとつが懐かしい。時代の空気感とともに、恐竜の模型を職業にするまでの熱気が伝わってきて、一気に読み通した。

本書のいちばんのプレゼントは、最終章で紹介される、荒木さんによる模型制作過程かもしれない。具体的な写真を添えて公開されている模型作りは、自分で制作してみたい人にとって大いに参考になるかもしれない。ぼくのような、ただ模型を見る立場のものからしても、その過程を見るのはわくわくする経験だった。
荒木さんが、恐竜模型を作るにあたって「骨から考える」とは以前から聞いていた話だった。実を言うと、聞いただけでは、骨格をイメージして外形を作るのだ、くらいの意味でしかとらえていなかった。ところが本書で紹介されているプロセスを見ると、むしろ「骨格から」の「から」の部分こそ重要であったと気づかされたのである。なぜといって、荒木さんは、いわゆる骨組みのうえに、最終的なフォルムに表れない肋骨などを作り、筋肉をつけ、表皮をつけていく。最終的に表面に見えるところだけではなく、まさに骨「から」作っていく。そのていねいさに、命を吹き込むとはこのことだと、感動を覚えた。

とはいえ、本書の本当の醍醐味は、それに先立つ各章にある。それらの章で荒木さんは、子ども時代に模型作りをはじめたきっかけから、現在の制作方法に行き着くまでの出来事を、当時の心情とともに紹介している。いわば最終章がテクニックとしての造形について述べられているとすれば、そこにいたる各章では、思想としての造形が述べられているのである。
本文から2箇所、引用しよう。ひとつは骨格を考えるきっかけとなる経験を語った箇所、もうひとつは、荒木氏自身が「恐竜造形家としてのぼくの真のスタートライン」と言う経験を描いた箇所である。

(上野の国立科学博物館に展示されているアロサウルスの)写真の生態復元模型を見ると、おなかにへんなでっぱりがあるのがわかりました。なんだろうと、ふしぎに思い、骨格の写真とくらべて見ると、おなじ部分に大きなハート型の骨がつきでていることに気づきました。あとになって、それが「恥骨」という骨だと知るのですが、そう気づいた瞬間、「これはからだのなかの骨のことまで考えて作ってあるんや!」と、ひとりで興奮してしまいました。

(松村しのぶさんの作品に出会って)彼の作る恐竜は「動物」だったのです。それは、とても自然に表現されています。まるで動物園のゾウを目の前で見ているような感じがするのです。体重のかかったあしの指のかたちであったり、関節をまげのばししたときの、微妙なひふののびちぢみなど、全体のかたちとともに、指先からしっぽの先まで、すみずみまでが、動物としての生命感にみちあふれています。(中略)ところが、ぼくがそれまで作っていた恐竜模型は、ゴジラなどの怪獣やドラゴンなどのモンスターに影響された、すごい筋肉もりもりの「かっこいいだけのもの」だったのです。とてもショックでした。

なんて正直な文章だろう。ものづくりの本質がそのまま切り出されているような文章だ。著者といっしょに創作の神髄を見出す喜びを、きっと読者も感じることができることと思う。本書は、ただ荒木さんの自伝であるだけではなく、読者に多くの学びを与えてくれる、すぐれた教養書でもある。
読み終えて、表紙にある荒木さんによるティラノサウルスの模型の写真を見返す。すると、本書をはじめに手にしたときとはまったく違う視線で、その模型写真を見ることができることに気づく。一つ一つのふくらみやへこみ、しわに至るまで、何と味わい深い模型だろうか。
そしてふと、気づくのである。こうした目線を養ってくれたのが、まさに本書であることに。ぼくは本書を読みつつ、なんども荒木さんの正直でおごらない人柄に触れたように思った。荒木さんは、読者とともに歩んで読者を成長させてくれる、すぐれた先生でもあったのだ。

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