書籍『ニッポンの恐竜』

……それゆえ、「リュウ」には地域おこしへの過重な期待がかけられたりもする。それが結果的に、研究の質を落としたり、あるいは拙速な間違いを生んだりしないように。そんなことを、本書で描かれる「リュウ」たちは語りかけてくる。……
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先日、韓国で初めての角竜が発見され、国名をとって「コリアケラトプス」という名前がつけられた。
韓国初の角竜類発見
惜しいことに、世界で始めて韓国名が入った恐竜は、その少し前に発表された竜脚類「コリアノサウルス」だったようだ。
韓国の名前が入った恐竜
この記事でも述べたが、では日本の国名が入った恐竜は、と調べてみると、「ニッポノサウルス(ニッポンリュウ)」がいる。しかしだ。残念ながら、その存在を多くの人が知っているかというと、そうではない。 今、ニッポンリュウは、北海道大学総合博物館で全身骨格が展示されている。ハドロサウルス科の子ども(といっても中学生くらい)だそうである。 この化石、見つかったのは今から80年近くも前、1934年のこと。場所は、当時日本領だった南樺太。炭鉱を掘る作業の途中で見つかったという。記載論文は1936年に発表されている。映画『キングコング』が人気を博して間もないこともあって、センセーショナルに報道もされた。 ところがその後、ニッポノサウルスの研究を進める人が現れず、実物をわれわれが目にする機会はほとんど無かった。北大の所蔵品であるはずだが、保管されていたのは京大の収納箱。はては、有効な種か疑問という声さえ出た。 それがようやく動き出したのが、北大に総合博物館を作る構想が具体化した1995年のこと。この動きがあったおかげで、2004年には、晴れて現代の視点から新種として再記載する論文も発表された。 ……などというドラマが、ニッポンリュウにはあった。ニッポンリュウは長く収納箱の中で眠り、その間に、それが発見された土地は日本の領土を離れ、日本は戦争を経て高度成長期を経験し、バブル崩壊にあった。 では、現在の日本領土から発見された初めての恐竜はというと、モシリュウである。宮澤賢治も夢見た(作品「楢ノ木大学士の野宿」)岩手県岩泉町、三陸海岸沿いの白亜紀層。すでに賢治から時代も下った、1978年のことである。 記載論文は1991年に発表されているが、ディプロドクス科の上腕骨だ。発掘の際、弱くなった骨を固めるため、近所の文具屋の接着剤を買い占めたという伝説が残っているそうだ。 ちなみにこのあと、日本では1979年に熊本県御船町で肉食恐竜「ミフネリュウ」の歯の化石が、1981年には群馬県中里村でダチョウ型恐竜「サンチョウリュウ」の脊椎骨が発見されている。 再び時代を遡る。これがまた不思議な話で、1937年に発見された「イナイリュウ」。和名の愛称ではややこしいが、これは恐竜ではなく海棲爬虫類。宮城県稲井地方で発見された。1951年発表の論文ではノトサウルス類とされている。 ところがこの化石、その後消えてしまうのである。おまけに、近くでウタツギョリュウが発見され、実はイナイリュウも魚竜だったのではないかという疑いが出てくる。しかし、それを確かめる術はない。 1976年に発見されたエゾミカサリュウも数奇な運命をたどっている。海に棲むモササウルス類の化石なのだが、当初肉食恐竜の化石とされ、1977年にはティラノサウルス科の化石と考えられるとして、国の天然記念物の指定まで受けている。 文化財データベースには今、「その後の研究の進展により,現在では海棲ハ虫類の化石と考えられている。」と補足がつけられている。確かに、論文記載は2008年だが、実は当初からティラノサウルスという見方には疑問が付されていたという。 本書はほかにも、フタバスズキリュウなど、日本の「リュウ」たちをおっている。それぞれの発見に、これほどの物語があるとは、知らなかった。それらをたんねんに掘り起こし、描いていく過程はスリリングで、一気に読み進めさせる。 いま、日本はふたたびの「リュウ」ブームだ。お恥ずかしながら、タンバリュウ(丹波竜)もその片棒をかつがせてもらっている。 地方が疲弊し、地域の人たちから元気が失われていく今、各地で見つかる「リュウ」たちは貴重な存在だと思う。それゆえ、「リュウ」には地域おこしへの過重な期待がかけられたりもする。それが結果的に、研究の質を落としたり、あるいは拙速な間違いを生んだりしないように。そんなことを、本書で描かれる「リュウ」たちは語りかけてくる。 さいわい、ブームに期待をするのは今、むしろ中央のメディアであり、地域で「リュウ」に接する人たちは、あんがい冷静にそれを見つめているようでもある。 そんな日本の動きを眺めるにあたって、かっこうの一冊である。一読をお薦めしたい。
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