……エンターテイメント性と学術性のコラボレーション。しかもそれが、エデュテイメントというわけではない、ドキュメントとしてのおもしろさで語られている。……
http://www.amazon.co.jp/%E6%81%90%E7%AB%9C%E3%81%AE%E5%BE%A9%E5%85%83-%E7%9C%9F%E9%8D%8B-%E7%9C%9F/dp/4054036228/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1287197495&sr=1-1
おもしろい。解説文には専門的な内容が書かれているのに、それを読む行為が楽しい。こんな切り口があったかと、快哉を叫びたくなった。エンターテイメント性と学術性のコラボレーション。しかもそれが、エデュテイメントというわけではない、ドキュメントとしてのおもしろさで語られている。おしつけがましい表現は好きじゃないけど、あえて、必読、と言ってしまう。
本書は、恐竜復元に取り組む複数のアーティストの作品を取り上げ、そこに恐竜研究の最新情報を付す形で編集されている。その意図は、「はじめに」に書かれた監修者のひとり、小林快次さんの経験に凝縮されている。
ある時、ある芸術家から私の研究結果をもとにして恐竜を復元したいという話がきました。私は、快く手伝わせてもらおう、私の考えを復元画として再現しようと意気込んでいました。芸術家とともに行う復元作業は、私の持っているデータや図を提供し、そこから復元していくというものです。しかし、作業が進み、私の「断片的な」情報を復元画という一つの形につくり上げていくにつれ、矛盾点が浮き彫りになってきたのです。結局、私が行っていた研究に、落ち度があることを気付かされた一瞬でした。
ぼくはずっと、復元画あるいは復元模型というのは一種の「顧客サービス」だと思っていた。体色などにクリエイターの工夫が加えられるところはあるものの、基本的にそれは、発掘された研究成果を、読者や観客にわかりやすく提示するための、付加的な作業(とても重要なことではあるけれど)だと考えていた。
でも、研究者の言葉として書かれた、「私が行っていた研究に、落ち度があることを気付かされた」という一文は衝撃だった。それはつまり、画家や造形作家もまた、研究の一翼を担っているということにほかならない。科学を一般にわかりやすく伝えるコミュニケーターとしての役割だけではなく、研究の質を左右する根源にも関わっているということではないか。
このところ、オズボーン(研究)とナイト(画)の時代についての記述などを通し、化石からの復元作業が「恐竜観」に与える影響の重みを徐々に認識し始めていた自分ではあったが、これはまさに、その重要性を決定的に教えてくれた一文だった。
本書に取り上げられている作家は、次の通り。
カレン・カー、タイラー・ケイラー、トッド・マーシャル、小田隆、ゲイリー・スターブ、田渕良二、徳川広和。
読者としては、まずはこれら個々の作家の作品を楽しむという、至福の時間が許される。見開きを使ってたっぷりみせてくれるそれらの作品は、おそらくどこかで目にしたような、有名な作品が多い。
作品に続いて、制作にあたっての作者の言葉が紹介されており、続いて、研究者による、そこに描かれた恐竜についての最新の研究成果が解説されている。
ページ構成としては、それぞれの恐竜が棲息した年代にひもづけて、当時の地球の大陸の様子が描かれているのも嬉しい。また、適宜進化系統樹が紹介されている。
個々の恐竜の種とともに、それが生きた環境や、進化の歩みも立体的に理解できるよう、工夫されている。この分野の初心読者への配慮を感じさせる、編集の妙である。
この「立体的な理解」に関連しては、それぞれの復元図あるいは復元模型に添えられる解説の内容にも、練られたあとを感じる。アートに引きずられすぎることなく、書籍全体として、アートを通して研究のさまざまな局面を多面的に知ってもらいたいというバランス感覚を感じる。環境や生態、動きや姿勢、進化上の位置づけ、身体のパーツの役割など、ぼくは多くのことを学んだ。
大陸移動、足跡のような生痕化石からの推測、CTスキャンなど最新の技術がもたらした新しい発見。学びの幅は広い。しかも、繰り返しになるけれど、この知的興奮が、復元された美しい絵や模型という目の幸福と共に味わえるのだ。
ほんとうに、得がたい一冊である。
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