書籍『カラー版徹底図解 恐竜の世界』

……そうなのである。『知られざる日本の恐竜文化』を読んでガツンと衝撃を受けた、そんな人に真っ先に進めたいのが、本書だ。……
http://www.amazon.co.jp/%E5%BE%B9%E5%BA%95%E5%9B%B3%E8%A7%A3-%E6%81%90%E7%AB%9C%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C-%E9%87%91%E5%AD%90-%E9%9A%86%E4%B8%80/dp/4405106924
金子隆一さん監修の一冊。先に『知られざる日本の恐竜文化』の感想で、ぼくは「怖い本だ」と形容した。何も知らないでマニアの巣窟に近づく恐ろしさを教えてくれたという自戒を込めた表現である。しかし金子さんは、こんな優しい本も出してくれた。 「はじめに」から引用しよう。
初期の段階を過ぎ、もう少しふみ込んだ科学としての恐竜学の世界を覗き込もうとすると、ここから急に道は狭く、険しくなってくる。(中略) 本書は、そのような読者のため、せめて現代の恐竜学の概要なりとも鳥瞰できるように、という意図をこめて作られた。
そうなのである。『知られざる日本の恐竜文化』を読んでガツンと衝撃を受けた、そんな人に真っ先に進めたいのが、本書だ。 第1章で導入的に、恐竜に関連する新発見をいくつか紹介した後、第2章では「恐竜とは何か」を説明してくれる。リンネ式分類に代わって現代では分岐分類が主流になっていること。そのうえで、恐竜とは何かという定義。基礎の基礎だが、ぼくたち一般人は、こうした定義を知らない(ために翼竜や首長竜も恐竜と思ってしまっていたりする)。 ちなみに分岐分類というのは、生物に共通の祖先がいたことを前提に、そこから派生的に分岐する形でさまざまな種を位置づけていくもので、ということはつまり、それぞれの分岐点において、主たる幹から何が変わって共有されているのか(共有派生形質)が定義されていく。 大きな流れでいけば、恐竜は、まず「四肢動物」という分岐群の中の「有羊膜類」に含まれる。ここから哺乳類と「真爬虫類」が分岐する。ここで分かれた哺乳類の祖先には、素人には恐竜に見えるディメトロドンなどもいたりして、これはむしろぼくたち人類の祖先に近いわけだが、横道にそれた。 真爬虫類から「双弓類」が分岐し、その先に「主竜類」が分岐する。主竜類には、鳥やワニ、翼竜なども含まれるが、この先に「恐竜類」が分岐する。恐竜類を特徴付ける共有派生形質のうちで重要なのは次の3点。
  • 直立歩行を行う
  • 大腿骨を受ける骨盤の穴が(寛骨臼)貫通している
  • 足首が一直線になっている
そもそも恐竜は二足歩行をする動物として進化してきたわけで(それが後に二次的に四足歩行になった)、翼竜や海生の爬虫類はまったく定義からずれる。 こうした基礎の基礎から、学術的な視点を保ちつつ、図版で分かりやすく解説してくれる。 第3章では、主だった系統の特色を解説してくれる。特筆すべきは、そこに添えられている復元イラストだ。山本聖二さんの手によるものだろう、筋肉の細部まで震えているような、今にも動き出すような感覚のある、生きた絵である。 解説は、分岐分類に基づき、共有派生形質の紹介、その分類群の特徴をコンパクトに見開きでまとめていく。多少説明が専門的で、入門者には難しいところがあるが、いきいきしたイラストがあるため、ページ自体には難解な印象はない。まずはざっと読み進め、必要な時に立ち返って読み返すと、深く納得できる、そんなスタンスの作り方だろう。 入門者にとって嬉しいのは、それに続く第4章だ。こちらは「恐竜の歴史」と題して、時間軸に添って、恐竜の移り変わりを紹介してくれる。ぼくたちはつい「恐竜時代」とひとくくりにしてしまいがちだが、当然、時代によって生きていた恐竜は違うわけで、こうした変化を確認できる章となっている。 第5章は「恐竜研究最前線」である。これも、ひとつひとつの説明は見開きで簡潔でありつつ、最新のテーマを分かりやすく解説してくれる。恐竜の内臓、羽毛、走る速さ、CTスキャン、社会行動、成長と寿命、さらには「渡り」。恐竜ルネサンス以降の、今も議論が続く話題群である。 第6章では、そんな恐竜研究の歴史を描いている。最初の恐竜の発見、命名、骨戦争、恐竜ルネサンス。 これだけつまって、本体価格1500円というのは、お買い得である。ぜひ、お手元に。
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