書籍『世界の化石遺産』

……見つかった化石そのものではなく、化石が見つかる地層について、詳しく解説されている。古地図を広げると目の前の風景が新しい視点で見えてくるように、化石ラガシュテッテンを通して、古生物学の広がりを見せてくれる。……
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%8C%96%E7%9F%B3%E9%81%BA%E7%94%A3%E2%80%95%E5%8C%96%E7%9F%B3%E7%94%9F%E6%85%8B%E7%B3%BB%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96-P-%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%B3/dp/4254162618/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1291343034&sr=8-1
先の夏は、特に多くの恐竜関連番組が放送された。メディアがタイアップした大型恐竜展があったためではあるが、最新の映像で再現される恐竜時代は魅力的だ。 番組で取り上げられた時代は、カンブリア紀であったり、恐竜時代(白亜紀、ジュラ紀)であったり、あるいは新生代であったりした。多くの化石が紹介され、また、発掘現場の映像もふんだんに目にする機会があった。 だからだろうか、それらが「どこで見つかったか」ということが、徐々に頭の中に入ってきた。なにより、映像で見るそれぞれの発掘風景が印象的だった。研究者たちが並んで椅子に座り、石を平板状にはがすように割って、中から化石を探すドイツの現場。あるいはタールにまみれながら、そこに沈んだ化石を探すアメリカの現場。そんな化石の保存のされ方があったのだと、驚かされた。 そうした化石群のことを、ラガシュテッテンと呼ぶそうだ。本書は、そんな化石ラガシュテッテンに着目した、ユニークな一冊である。見つかった化石そのものではなく、化石が見つかる地層について、詳しく解説されている。古地図を広げると目の前の風景が新しい視点で見えてくるように、化石ラガシュテッテンを通して、古生物学の広がりを見せてくれる。 本書で取り上げられている化石ラガシュテッテンを紹介しておこう。
先カンブリア時代 エディアカラ(オーストラリア) 古生代 バージェス頁岩(カナダ)/スーム頁岩(南アフリカ)/フンスリュックスレート(ドイツ)/ライニーチャート(イギリス)/メゾンクリーク(アメリカ合衆国) 中生代 ボルツィア砂岩(フランス)/ホルツマーデン頁岩(ドイツ)/モリソン層(アメリカ合衆国)/ゾルンホーフェン石灰岩(ドイツ)/サンタナ層とクラト層(ブラジル)/グレーベ・メッセル(ドイツ) 新生代 バルトのコハク(ロシア)/ランチョ・ラ・ブレア(アメリカ合衆国)
エディアカラ、バージェス頁岩、メゾンクリーク、モリソン層、グルーベ・メッセル、ランチョ・ラ・ブレアなど、一度は聞いたことのある名前が並んでいる。あえて意識して覚えた名前ではない。古生物を取り上げる番組を見ているうちに、自然と耳に入ってきた名前だろう。素人耳には、どこか、魔術的で、ファンタスティックな響きがある。ファンタジーの舞台として登場しそうな名前たち。 実際、それらはある種の魔法の場所だったかもしれない。通常は残りづらい古生物の姿を、現代まで残してくれたのだから。
ときに、驚嘆するようなすばらしい化石記録のプレゼントがある。きわめてまれではあるが、例外的な状況下で、生物体の軟体部が保存されたり、化石化がめったに起こらない環境のものが保存されたりすることがある。普通の場合よりはるかに完全に保存された化石を含む地層は、地球の生命の歴史に開いた「窓」であるといえる。
このように序論で述べられている通りの場所。ラガシュテッテンにはふたつのタイプがある。大量の化石が集積する密集的ラガシュテッテンと、保存の質の良さを誇る保存的ラガシュテッテンだ。 ことに保存的ラガシュテッテンの写真を見ると、当時の生物をそのまま拓本にしたような様子に驚かされることになる。コハク、永久凍土、石油の池など、保存トラップにからめとられたかつての生き物たち。あるいは、急速に埋没するような状況下で、一瞬で「窓」の風景に閉じ込められた古生物たち。 本書は、それら「窓」ひとつひとつをていねいに覗かせてくれる。 まずは、ラガシュテッテンが保存し、われわれに教えてくれる時代についての背景知識を教えてくれる。たとえば、バージェス頁岩なら、それがカンブリア大爆発を教えてくれること。グールドが『ワンダフル・ライフ』で解説してよく知られるようになったことまで触れられている。グレーベ・メッセルなら、恐竜時代の後の哺乳類の進化を教えてくれること。 次に、その化石群が発見された経緯や歴史。バージェス頁岩なら、スミソニアン研究所の長官をしていたウォルコットが、妻との散歩の途中で出会った有名なエピソード(と、それが日記の記述とあわないことの指摘)。モリソン層なら、それをめぐって繰り広げられたマーシュとコープによる発掘をめぐる「骨戦争」。 動植物が化石として保存されるまでを解説する「タフォノミー」がそれに続く。ランチョ・ラ・ブレアならアスファルトの池という天然の罠が、生物たちを捕らえた。 そしてもちろん、そこから発見される化石群の解説。図版も多く、化石がこれほどみごとに発掘されてきたのかと驚かされることしきりだ。 最後に、古生態も紹介されているのが嬉しい。これによってぼくたちは、そのラガシュテッテンが示す古い時代の様子を、思い描くことができる。 最後に、それぞれのラガシュテッテンからの化石を見ることができる博物館の案内と、現地訪問の案内が付されているのも嬉しい。 専門的な記述が多い書籍だが、専門家でないぼくでも、充分楽しめた。みごとなつくりの本だ。本書を読むことで、これまで歴史という縦糸の中で見ていた化石群を、地理という横糸とともに見ることができるようになった。 複眼を養ってくれる本である。
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%8C%96%E7%9F%B3%E9%81%BA%E7%94%A3%E2%80%95%E5%8C%96%E7%9F%B3%E7%94%9F%E6%85%8B%E7%B3%BB%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96-P-%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%B3/dp/4254162618/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1291343034&sr=8-1